不動産情報デジタル標準化の覚書

(元)宅建士・プログラマーが提言したいこと

不動産登記簿の情報をブロックチェーンで?一体何をアホな・・・

 「既存の登記制度・権利の公示制度をブロックチェーン等を利用して完全に電子化することなども中長期的に検討されるべき事項なのではないかと考える」

Orz。

ダメだ、何も分かってない・・・と溜息がでる。

出所は下記なんですが、

 

第 12 回 不動産投資市場政策懇談会(令和2年4月22日)
議事概要

 

議事③ 金融技術進展等を踏まえた対応策
資料 5 に関し、以下のとおり意見があった。

ICO(Initial coin offering)と、IT を利用したセカンダリーマーケットが一般化すると、
インパクトが大きいものと思われる。また、既存の登記制度・権利の公示制度をブロックチェーン等を利用して完全に電子化することなども中長期的に検討されるべき事項なのではないかと考える。

https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/content/001348258.pdf

建設産業・不動産業:不動産投資市場政策懇談会について - 国土交通省

 

あのですね。いくらブロックチェーンが流行りの技術だからと言って、なんでもかんでもブロックチェーンにすれば良いという話しでは無いんです。技術的に出来るか、と言えばもちろん可能です(論文にするまでも無くw)。でも、ブロックチェーンp2pにして分散化させる意味あります?ないでしょw 誰がすき好んで不動産登記簿データのコピーを保持してコンセンサスアルゴリズムでみんなしてアレやコレして「マイニング」したりするというのでしょうかね。受け取るメリットは?ないですがな。普通に国が責任もってデータベースで管理すれば構わないですし、その方が10倍マシです。

因みに、私はブロックチェーンに懐疑的なアンチでもありません。寧ろ、関連ソフトウェアを何個も作るほどの人間です。

多分、この発言をした人は、未だにICOとか言っちゃってる事からも、自ら理解していないで、人から聞きかじった事(だいぶ遅れている話し)を吹聴しているだけ、という事が分かります。

こんなレベルの発言が、国交省の政策懇談会で飛び出すなんて、嘆かわしいこと極まりない。

 

さらに悪い事に、日本のIT企業はと言えば、「ブロックチェーン」というバズワードに乗ってここぞとばかりに意味のない事をぶち上げて自社の宣伝をする、という無意味な事ばかりしています。アホです。ブロックチェーンビットコインを構成する内の単なる一つの技術に過ぎず、なんでもかんでもブロックチェーンにすれば良いという訳じゃないのです。

ブロックチェーンで自社サービスにユーザーを囲い込みしよう、なんて考えている企業があったらそれこそ笑いものです。なぜなら、ビットコインの成功は、企業や政府による中央集権的な管理の余地を徹底的に排除した、純粋なP2Pで自立的というかDecentralized(非中央集権的)に動くシステムを実現したところにあるからです。

ビットコインの特性は、「暗号」と「ブロックチェーン」と「コンセンサスアルゴリズム」の3つを組み合わせて使った、非中央集権の分散型マネタリーシステム、という点です。

「ビットコイン・スタンダード」を読んだ - torum

 

ビットコインがなぜ「トラストレス」つまり「中央集権的な管理の余地を徹底的に排除」したものにしなければならなかったのか、というと、中央銀行が管理する法定通貨では、中央銀行がじゃぶじゃぶお金を刷ったりして金融システムを歪めるという問題があるからです。これは、ビットコインジェネシスブロック(ブロックチェーンにおける最初のブロック)に、「The Times 03/Jan/2009 Chancellor on brink of second bailout for bank」とあるのが有名な話しで、リーマンショック後の金融危機で、銀行救済などの話しが出ていた時です。

つまり、市場へ介入する銀行や政府といった第三者(トラスト)を排除するのが狙いなのです。そのためにわざわざある種面倒な「暗号」と「ブロックチェーン」と「コンセンサスアルゴリズム」の組み合わせでやってるのです。そうでなければ、中央集権的なシステムの方が効率的なのです。

登記のシステムを維持するのに、無理して「トラストレス」をする理由付けありますか?現在のシステムで政府が不正に記録を書き換えたりして問題になっていますか?という話しです。そうでなければ、わざわざ無理して不便で非効率な「トラストレス」なシステムにする必要はありません。

 

追記:ちょっと調べてみたら、悪夢のような文献を見つけてしまった・・・

不動産の分野でも、スマートコントラクトを活用すれば、契約書を電子化したうえで、契約の成立を「執行条件」とすることによって、不動産登記や資金決済の実行を自動的に行い、業務の効率化を図るといった構想が考えられている。

 土地総合研究 2019年秋号

特集 不動産市場の新潮流 -ブロックチェーンの不動産分野での活用可能性

麗澤大学 経済学部 教授

https://www.lij.jp/html/jli/jli_2019/2019autumn_p064.pdf

 

あのですねw まず「コントラクト=契約」と超単純に勘違いしているんだと思う。イーサリアム等の「スマートコントラクト」はそういうものではなく、開発者のヴィタリック・ブテリンも、「名前付け失敗した~」とツイッターでぼやいてましたが、そういうものではありませんからw

因みに、これがそのツィート。

 

訳すと、

はっきりさせておきたいんだけど、現時点で、「スマートコントラクト」と名付けてしまった事を自分は相当に後悔してる。もっとつまらない単純で技術的なネーミングにすればよかったよ。例えば「パーシステントスクリプト」とかさ。

ですw

 

で、筆者が想定しているような「スマートコントラクト」は単なるプログラムです。どこにでもある単なるコンピュータープログラム。ブロックチェーン関係ありませんw 賭けてもよいけれど、筆者の方はプログラミングとかは素人だと思う。ビットコインブロックチェーンで「所有権の移転を記録」とか「台帳」とか出てくるから、不動産関係の人はすぐ、「これ登記じゃん?」って発想になるんでしょうが、木を見て森を見ずというかなんというか・・・。

大体において、こういう事を言う人達は、不動産関連実務がそもそも分かってない系か、技術的な事が分かってない系のどちらかが、「(今流行りの)ブロックチェーンで出来るんじゃね?」と思いつきで言っているだけです。実際にメリットがあるか、技術的に適しているか、なんて、まったく考慮にいれてないで話してますからw